後継者不在が招く事業承継問題とは何か
中小規模の不動産管理会社において、経営者の高齢化に伴う後継者不在は深刻な課題です。多くのオーナー社長が引退を考える年齢に達する一方で、家族や社員など社内に適切な後継者がいないケースが増えています。その結果、事業を誰にも引き継げずに廃業を選ばざるを得ない企業も少なくありません。実際、帝国データバンクの調査によれば、2021年に全国で約5.5万社もの企業が休業・廃業・解散しており、そのうち半数以上が黒字経営のまま事業を閉じています。つまり、経営自体は順調でも後継者がいないために泣く泣く幕を下ろす「黒字廃業」が各地で起きているのです。
このような廃業の背景には、まさに後継者難の問題があります。ある調査では、廃業予定企業の約3割が「適当な後継者が見つからない」ことを理由に挙げています。中小企業庁の2018年版中小企業白書によると、2015年時点で中小企業経営者の年齢ピークは66歳に達しており、その約半数の企業で後継者が未定でした。この傾向は不動産管理業界でも同様で、経営者の高齢化と後継者不在に悩むケースが増えています。こうした状況を放置すると、従業員の雇用や長年お付き合いのある顧客との関係も断ち切られてしまいかねません。地域に根ざした不動産管理会社が廃業すれば、地元の賃貸オーナー様や入居者様にとっても大きな損失となります。事業承継問題は、単なる経営者個人の引退の悩みにとどまらず、社員や顧客、ひいては地域社会にも影響を及ぼす重要課題なのです。
廃業以外の選択肢:M&Aという第三の解決策

では、後継者不在に直面した経営者は廃業以外にどんな道があるのでしょうか。大きく分けて、社内外から後継者となる人材を探す方法があります。社内では親族や役員・社員への引き継ぎが考えられますが、適任者がいなかったり本人に承継の意思がなかったりすれば難航します。また昨今では社外に目を向け、他の企業や起業家に事業を譲渡するM&A(合併・買収)が有力な解決策として注目されています。
M&Aによる第三者への事業承継は、近年中小企業の間で急速に増加しています。政府や金融機関も事業承継問題への対応策として中小企業のM&Aを支援しており、専門の仲介会社やマッチングプラットフォームも登場しています。実際、不動産管理業界においても地域密着型の中小不動産管理会社同士のM&Aが増加傾向にあります。買い手企業側から見ると、不動産管理会社を買収することで管理物件戸数を一気に増やせるため、効率的に業容拡大できるメリットがあるからです。こうした業界再編の流れも追い風となり、「後継者がいないから仕方なく廃業」という以外の選択肢が現実味を帯びてきています。
M&Aで事業を譲渡する最大の利点は、会社を存続させられることです。廃業してしまえばそこで事業は終わりですが、適切な譲渡先が見つかれば、会社の看板も従業員の雇用も守られ、顧客との取引関係も継続できます。長年培ってきた会社の信用やノウハウを次世代に繋げられる点で、社会的にも経済的にも意義の大きい選択と言えるでしょう。また、オーナー経営者にとっても、廃業時には清算コストがかかるのに対し、M&Aであれば株式や事業の売却益を得ることができます。とくに不動産管理業は毎月の管理料収入というストックビジネスであり、一定の収益規模があれば企業価値がしっかり評価されます。実際、あるデータでは不動産管理会社の譲渡価額の目安は営業利益(EBITDA)のおよそ6~8倍程度ともされています。もちろん個々の状況によりますが、廃業するよりも経済的リターンが期待できる点は見逃せません。
M&Aを活用する具体的なメリット
事業承継型M&Aには、経営者・従業員・顧客それぞれに様々なメリットがあります。ここでは後継者不在に悩む売り手経営者の視点から、主なメリットを整理してみましょう。
- 会社と従業員の継続性が確保できる: M&Aによって第三者に事業を引き継げば、会社そのものは存続し、従業員は引き続き雇用されます。廃業すれば社員を解雇しなければなりませんが、譲渡であれば社員の雇用先がそのまま維持されるため、従業員の生活やキャリアを守ることができます。これは経営者にとっても大きな安心材料ですし、社員に対する責任を全うすることにもなります。
- 取引先・顧客との関係維持: 不動産オーナー様や入居者様など、これまで築いてきた顧客との信頼関係を途切れさせずに済むのも重要なメリットです。廃業すると管理契約中のオーナー様は他社への変更を余儀なくされ、入居者対応も混乱します。第三者への承継であれば、基本的に既存の管理契約やサービス提供はそのまま継続されるため、顧客に迷惑をかけずに済みます。地元の信用を守り、自社の看板を次代に残せることは、地域密着型ビジネスにおいて非常に価値があります。
- 経営資源の有効活用と発展: 譲渡先によっては、買い手企業のリソースやノウハウを活用して事業がさらに発展する可能性もあります。たとえばIT化や営業力強化など、自社だけでは難しかった投資を引き継いだ会社が行い、事業の成長に繋げてくれるケースもあります。また買い手企業にとっても、有資格者を含む熟練スタッフを獲得できたり、管理物件数を増やせたりする利点があります。こうした双方にメリットがある点が、中小企業の事業承継M&Aが盛んになっている理由の一つです。
- 経営者の引退後の安心感: 自分が築いた会社を閉じるのではなく、信頼できる後継企業に託せることで、経営者は安心して引退後の人生を迎えられます。長年の顧客や従業員に対して「最後まで責任を果たせた」という充実感や、会社が今後も発展していくことへの期待感を持てるでしょう。譲渡条件によっては、一定期間は顧問的に経営に関与し、新オーナーをサポートできるケースもあります。経営者としての想いを次世代に繋ぎつつ、個人としては相応の利益を得て第二の人生をスタートできる点で、理にかなった選択と言えます。
以上のように、M&Aによる事業承継は単に会社を「売る」行為ではなく、企業とそこで働く人々の未来を託す行為です。適切に進めれば、売り手・買い手・従業員・顧客の全てにプラスとなるWin-Winの結果を生み出せます。
M&Aによる事業承継の基本プロセス
もっとも、M&Aと一口に言っても初めての経営者にとっては不明点が多いでしょう。「具体的に何から始め、どのように話を進めれば良いのか?」という不安は当然です。ここでは中小企業の事業承継型M&Aの一般的な流れを、ポイントごとにわかりやすく説明します。
- 事前準備と方針策定: まずは経営者ご自身が事業承継の方針を明確にする段階です。自社の財務内容や事業価値を把握し、「従業員の雇用維持」「企業名の存続」「希望する譲渡金額」など譲れない条件や優先順位を整理します。同時に、信頼できるM&A仲介会社や専門家に相談し、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、自社の企業価値評価(バリュエーション)を依頼します。専門家と協力して適正な会社の評価額や市場の動向を確認し、譲渡の具体的な戦略を練ります。
- 買い手候補の探索: 次に、適切な引継ぎ相手(買い手候補)を探すプロセスに入ります。仲介会社が中心となり、業界内外から条件に合いそうな候補をリストアップし、匿名(ノンネーム)情報で予備打診を行います。興味を示す候補先には、詳細な企業概要書や財務情報を開示し、トップ同士の面談の場を設けます。お互いの事業観や譲渡後のビジョンなどを話し合い、信頼関係を築く重要なステップです。複数の候補と交渉する場合もありますが、最終的には「この会社なら自分の事業を任せられる」と思える相手を選定します。
- 条件交渉と契約締結: 買い手が決まったら、具体的な譲渡条件の交渉段階です。まず買い手から基本的な買収意向を示す意向表明書が提出され、双方で大枠の条件に合意したら基本合意契約を締結します。その後、買い手側によるデューデリジェンス(詳細な事業調査)が行われ、財務・法務・ビジネス面の確認がなされます。DDを経て最終条件を調整し、問題がなければ最終契約の締結・クロージングとなります。クロージング時に譲渡対価の支払いが実行され、株式や事業資産の名義が買い手に移転します。
- 引継ぎとアフターサポート: 契約締結後は、実務的な事業引継ぎを円滑に行います。従業員や取引先への周知、各種許認可や契約の名義変更手続き、在庫や資産の引き渡しなど、細かな作業を双方協力して進めます。経営者が交代した後も、一定期間は旧経営者が顧客紹介を行ったり、業務引継ぎのアドバイスを提供したりすることもあります。買い手企業にとってもスムーズに事業を引き継ぐことが重要ですので、ポストM&Aの計画を立てて従業員の不安ケアや顧客対応に万全を期します。こうして、新体制のもとで事業が継続・発展していく準備が整います。
なお、これらのプロセスを進めるにあたっては専門家の支援が欠かせません。M&Aは法務・財務・税務など専門知識を要する場面が多く、自力で進めようとすると見落としや交渉力不足に陥るリスクがあります。幸い現在は中小企業向けのM&A支援機関やアドバイザーが充実していますので、信頼できる専門家の協力を仰ぎながら慎重に進めることが肝要です。特に契約書の内容や条件交渉では法律事務所・会計事務所等とも連携し、不利のないよう十分に注意しましょう。
譲渡先選びの重要性:何より「誰に託すか」が鍵
事業承継M&Aを成功させる上で、経営者として最も頭を悩ませるのが「誰に自社を託すか」という点ではないでしょうか。譲渡金額も大切ですが、それ以上に「会社や社員を安心して任せられる相手か」ということが重要です。譲渡先によって、売却後の会社の運命は大きく変わります。たとえば買収後にリストラを行ったり、無理な統合作業で顧客離れを招いたりするようでは本末転倒です。そうならないためにも、譲渡先企業の理念や方針をしっかり見極め、自社のビジョンと合致するかを検討する必要があります。
幸い、近年の中小企業M&A市場では買い手企業側にも「事業を継承し発展させよう」という真摯なプレイヤーが増えています。特に不動産管理業においては、買い手側も長期的な管理収入を重視するため、既存顧客との関係維持や従業員の処遇に配慮するケースが多く見られます。売り手としては、このような誠実な買い手を選ぶことで、自社のカルチャーや強みが引き継がれ、従業員や取引先も納得した形で次章へ進めるでしょう。
譲渡先選びのポイントを整理すると以下のようになります。
- 経営理念やビジョンの共感: 自社が大切にしてきた理念に共感し、事業を単なる収益源ではなく社会的な価値として引き継いでくれる相手かどうか。
- 従業員・顧客への配慮: 譲渡後の従業員雇用を守り、既存顧客へのサービスを継続する方針を持っているか。人材や顧客を何よりも資産と考えてくれる企業であれば安心です。
- 財務基盤と持続性: 買い手企業に十分な財務体力があるか、短期的な利益目的ではなく持続可能な成長戦略を持っているか。これによって譲渡後の会社の安定性が左右されます。
- 業界経験・シナジー効果: 同業または関連業界で実績があり、自社との統合で相乗効果が期待できるか。買い手側にノウハウが豊富であれば、事業の発展も見込めます。
以上を踏まえ、譲渡先とは何度も対話を重ねて信頼関係を築くことが肝心です。条件面だけでなく、「人と人」として理解し合えるかを見極めましょう。私自身、経営者の立場であればこそ、「この人なら任せられる」という確信が持てるかどうかを最重視するはずです。
INA&Associates株式会社が提供できる独自の価値
事業承継にM&Aを活用する際、譲り受け企業としてどんな相手を選ぶかが重要だと述べました。ここで、一例として私どもINA&Associates株式会社が不動産管理事業を引き受ける場合に提供できる価値についてご紹介させてください。私は経営者として日々「人財」と「信頼」を軸に会社を運営しておりますが、弊社には事業承継を検討されるオーナー様にとって魅力的な次のような強みがあります。
- 富裕層を主要顧客とする高付加価値型の不動産管理ビジネス: INAは、富裕層のお客様を中心に高品質な不動産管理サービスを展開しており、通常の賃貸管理に留まらない付加価値を提供しています。たとえば資産価値向上のコンサルティングや、最新テクノロジーを活用した効率運営など、オーナー様の不動産収益を最大化するための工夫を凝らしています。こうしたハイエンド層へのサービス経験は、お引き受けする事業においても確実に活かせるでしょう。顧客基盤の質を高め、付加価値の高い経営へシフトしたいとお考えのオーナー様にとって、弊社は理想的なパートナーになり得ます。
- 安定性と信頼性の実績: 弊社がお預かりする不動産管理物件において、過去に「物件売却」以外の理由で管理契約が解約されたケースは一件もございません。オーナー様が物件自体を売却された場合を除けば、管理サービスにご満足いただき長期にわたりお取引を継続しています。この実績は、弊社の提供するサービスの安定性と信頼性を裏付けるものと自負しております。大切な資産を安心して任せられる管理会社をお探しの方にとって、契約継続率の高さは重要な指標ではないでしょうか。引き継ぎ後もオーナー様・入居者様との強固な信頼関係を維持し、安心して任せられる運営をお約束いたします。
- 従業員と既存顧客の継続を重視: M&Aで事業をお引き受けした後も、従業員の雇用維持と既存顧客との継続的なお付き合いを最優先する方針を掲げています。前述の通り、人は企業にとって最大の財産です。譲り受けた会社の従業員の皆様には引き続きご活躍いただき、その経験や知見を尊重してまいります。また、これまでその会社を支えてこられたオーナー様や賃借人様との関係も途切れさせることなく、スムーズな引継ぎに努めます。事業承継後の不安要素を最小化し、「譲ってよかった」と心から思っていただけるような体制を整えております。
- 持続可能な成長戦略に基づいた経営ビジョン: INAは短期的な利益追求ではなく、長期的・持続的な成長を重視した経営ビジョンを持っています。具体的には、人財育成とテクノロジー活用を両輪とした成長戦略を掲げており、常に業界に新たな価値を創造する存在であり続けることを目指しています。これは、譲り受けた事業に対しても同様です。単に現状を引き継ぐだけでなく、将来に向けて持続可能な発展を遂げられるよう責任を持って経営していきます。環境変化に強いビジネスモデルを追求し、次の世代へと事業を繋げていく——そのような大局的視野でお預かりした事業を運営することをお約束します。
以上の強みに加え、INAの代表である私自身も長年不動産業界に身を置き、現場から経営まで幅広い経験を積んでまいりました。その経験から、不動産管理業の苦労や喜びを深く理解しているつもりです。経営者の想いに寄り添い、事業と人を大切にする——それがINAのモットーであり、譲り受けの際にも貫いている信条です。
終わりに:事業承継問題は次のステップへの契機
中小規模の不動産管理業における事業承継問題、とりわけ後継者不在の悩みは、日本全国で多くの経営者が直面しています。しかし、決して悲観する必要はありません。M&Aという手段を活用すれば、あなたの築き上げた大切な事業を将来へと繋ぎ、お預かりした社員や顧客の笑顔を守ることができます。事業承継は終わりではなく、新たなスタートです。企業にとっても、経営者ご自身にとっても、第2の人生を切り拓く前向きな機会になり得ます。
私たちINAは、「人財」と「信頼」を何よりも重んじる企業文化のもと、事業承継に関わる皆様にとって最良のパートナーでありたいと願っています。後継者不在にお悩みの経営者様に対し、真摯に耳を傾け、最適なソリューションを共に考えてまいります。社員の雇用や取引先との信頼関係を大切にしながら、貴社の事業を次の時代へ発展させるお手伝いをさせてください。
事業承継問題は確かに難しいテーマですが、解決策は必ず存在します。その一歩を踏み出す勇気さえあれば、未来への道は拓けます。経営者として最後の大仕事とも言える事業承継を、どうか前向きに捉えていただきたいと思います。私たちはその伴走者として、そして次なる担い手として、皆様の大切な事業を未来に受け継ぐ決意を持っております。ぜひ一度、ご相談ください。共に最善の道を見つけ、未来へバトンを繋ぎましょう。
そして何より、経営者の皆様の想いを大切に、次世代への架け橋となることをお約束いたします。
